「ブンミおじさん」
ついにタイ映画がカンヌでパルムドールを獲得した。
20数年間、タイ映画を観続けてきた人間として
ようやくタイの社会に、成熟した映画文化が根付いた
証左であるこの度の結果を素直に喜びたいと思う。
バンコクを中心に、北部、東北部にまで及んだ今回の
デモは、むしろ遅過ぎた民主化への行動だったとしか
いいようがない。
つまりタイの社会は、真の民主化を勝ち得ないまま
文明だけが発展途上国を脱し中進国へキャッチ・アップ
してしまっていたからである。
本来ならあのような民主化への抗議運動は、
10年以上前に起こっていても何ら不思議ではなかった。
そして歪なステップを歩まざるをえなかったタイ社会に
内包される特殊性は、今回の抗議運動でも解消されることは
なかったように思う。
しかし、カンヌでパルムドールを獲るほど文化的熟成をなして
きた国家が、果たして今後も現存する矛盾をはらんだ
ままの社会体制でうまくゆくのだろうかと感じざるをえない。
そうした意味でも、今回の「ブンミおじさん」の受賞は
今後のタイ社会の健全な発展に結びつく可能性を感じさせる
文化による民主化運動ともいえるのではないだろうか。(T)