「エルミタージュ幻想」たしか2002年頃だったと思うのだが、
最近やたらと物忘れがはげしく、
物を取りに3階まで上がったのはよいが、
いったい今何を取りに来たのだろうと考え抜いたあげく
別の物を持って下りてしまい
1階まで戻ってからはたと気がつく、
そんな様子もみられる状況で記憶が定かでない。
場所は国際展示場であったように記憶しているから
おそらく国際放送機器展だったと思うのだが、
NHKによるハイビジョンのデモ上映で
このソクーロフの「エルミタージュ幻想」を観たことがあった。
この作品、当時様々な意味で話題になった。
カンヌ映画祭に出品される、
監督があのソクーロフである、
そうした普通の作品にも見られる決まりきった話題以外に、
この作品が特に注目されたのは下記の2点、
その第一が、あの美の宝庫・エルミタージュ美術館
その館内でオールロケが行われたという画期的な試み、
そしてさらに、この点がより注目を集めたわけであったが、
この作品はなんと、全編をワンカットのみで撮影したという
まさにギネスブックのような、斬新かつ革新的な試みが
なされているという、そんな話題であった。
映画人としては、何とも気になる話題に違いない。
何しろ全編ワンカットである。
ワンシーン、ワンカットとはわけが違う。
10分程度の短編ならわからなくもないが、
この作品は90分以上の尺がある。
撮影時における、そのキャメラワーク、ライティング、
そして総合的な演出と、その様子を想像するだけで
緊張感がこちらにも伝わってきそうな雰囲気がある。
会場ではNHKサイドのプロデューサー
(この作品はロシア、ドイツ、日本の合作である)
による作品の解説があった。
そのときの話に、この作品に関し今もあちこちに
記述されていることと異なる事実があったので
一応ここに記しておくが、この作品は厳密にいえば
ワンカットではなく、たしか(少々記憶が曖昧なのであるが)3カット、
つまり2回(トップとエンド)の繋ぎが入っているそうである。
だからどうなんだと言うわけでもなく、
そのことによってこの作品の価値が落ちるわけでは全くない。
何より作品自体を観れば、その異様なまでの緊張感は
例えていうなら9回裏、ツーアウト満塁、
もしくは1対0で残り時間はロスタイムの3分・・・
まさに比肩しうるのはスポーツの
そんな手に汗を握る状況のみといって差し支えない。
もちろん、こうして作品となって上映されているわけだから
上手く撮れているに決まっているのだが、
キャメラの移動(全編ステディカムによる)が
複雑な様相を見せ始めると、思わず肩に力が入ってしまう。
全編、まるでメイキング映像を観ているような、
観ている私たちがどうしても撮影現場を意識してしまうような、
そんな舞台裏が気になってしまうような状況もあるにはあるのだが、
そうした意味からも、この作品を心底楽しめる観客とは、
実際に映画を作っている、映画人たちなのかもしれない。
とにかく、この作品を構築した集中力は驚きであり、
ソクーロフのその力技的手腕には、脱帽する他ない。
そして最後に明記すべき1点。
この偉業はいったい何テイクかけてもたらされたのか。
プロデューサーが、3テイク目(簡潔かつ濃密!)でOKだったと、
そう語った記憶だけは自信がある。(T)