「そして人生はつづく」そろそろ台風の季節は過ぎ去ろうとしているが、
世界を見渡せば、今年は自然災害の多かった一年である。
四川の大地震、ミャンマーのサイクロン、米南部のハリケーン、
我が国でも、岩手・宮城で大きな地震よる災害があった。
3年ほど前に、仕事でタイ南部の観光地・クラビを訪れたことがあった。
日本人にはプーケットやサムイ島の人気が高いが、
屹立する石灰岩の山々と透明度の高いサンゴ礁の海、
そして白い砂浜で人気の高いビーチリゾートであるクラビは、
長期休暇のとれる欧米人たちの滞在型リゾートとして人気が高く、
開発の行過ぎていない、隠れ家的な魅力と大人の雰囲気をもった
素晴らしいリゾート地である。
しかしこのクラビは、2004年におきたスマトラ沖地震で甚大な被害をうけていた。
沖合いに浮かぶ数々の無人島をチャーターしたボートで回った。
いかにも海の男といった風情の、陽によく焼けた青年を眺めていると
この平安の地に、未曾有の災害が押し寄せていたとは、とても想像できなかった。
しかし、船を降り海岸線に並ぶレストランを訪れると、
店の経営者や従業員の口から当時の凄惨な状況、
そしてその後の政府の無策に対する批判の言葉を聞くのであった。
「この辺り一帯も、すべて津波に流されてしまった」
そう語りながらも、それでもどこか、その口調には災害はもう過去のこと、
今はもう、これまで通りに日々の仕事をこなしてゆくだけさ・・・
そんな達観にも似た、地獄を潜り抜けた人たちのもつ逞しさ、
正直、そんな印象すら得たのであった。
「そして人生はつづく」は、このタイトルの通り、
人はどんな災害や不幸に見舞われても、
その人生を受け入れ、自然の流れに身を任せるように生きてゆくのだ、
そんなキアロスタミからのメッセージを読み取ることができる。
クラビで出逢った人たちと、この作品に登場する被災地の人々に、
苦しみや心の傷を抱えながらも、それでも淡々と生きてゆく、
そんな共通点を感じたのであった。
それにしてもキアロスタミの、その映画作りの巧さといったらない。
カメラはすべて適所に置かれている。
素人を含め登場人物たちはすべて過剰を排した演技でリアリティを高めている。
車中に置かれたキャメラ、窓外に置かれたキャメラ、ロングショットを
おさめるときのキャメラポジション、すべて無駄がなくまたあのポジション以外
ありえないと思えるのである。
演出が未熟であるがゆえに“ドキュメンタリー”のような
素人っぽい映画になってしまった映画は数多く存在するが、
キアロスタミはその正反対、演出の巧みさ、隙のなさ、完璧さゆえに
虚構である物語をまるでドキュメンタリーか?と見紛う
リアルな作品として創造できるのである。
その創造力、なまじっかのハリウッド映画など、その比ではない。(T)
そして人生はつづく / パイオニアLDC
ISBN : B00005NS2T
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